大学の片隅で事務職員がさけぶ

小さな大学の事務職員がいろんなことをさけびます

人生デザインU-29「大学職員」

一部で話題となったNHKEテレ『人生デザインU-29「大学職員」』ですが、もちろんリアルタイムで見ることはできず、録画したものを観た。

 

NHK for School:NHK | 番組紹介 | 人生デザインU-29「大学職員」 (6/22ほか)

 

この番組は、“自らの人生をデザインしようと奮闘中の29歳以下代表”の姿を描き、毎回さまざまな仕事についている人を取り上げている。

今回は、立命館アジア太平洋大学の学生課職員(25歳男性)にスポットライトをあてていた。この大学は留学生が在学生の半数近くを占めているグローバルな大学で、業界の中でも注目されているところである。この大学は学校法人立命館が設置しており、京都の立命館大学も傘下にある。学生課職員の彼も立命館大学の卒業生から新卒で学校法人立命館に入り、当然母校に配属されると思っていたら、大分の立命館アジア太平洋大学に配属されてしまった。英語の苦手な彼はいろいろと苦労する……というのが、今回のストーリーだった。

 

ざっくりと観た感想は、どこの大学の学生課職員も細かいことでいろいろと大変だなぁと思う反面、フレンドリーな彼にとってはフィットした部署でもあったように見えた。

 

では、同じ大学職員という立場から見ると、いくつかおもしろいことが見えた。

 

1.職員は公平であるべきか

うちの大学、だけではなく、多くの大学でも、だと思うが、学生と接する上では公平公正であることが原則であるといわれる。でも彼は自分の知っている学生に積極的に声をかけたり、一緒にご飯を食べたり、バスケットで一緒に汗をかいている。単純に考えると、いいじゃんと思うが、学生との距離が近すぎるのが気になった。仲のいい学生とそうではない学生との対応に違いがなければよいと思うが、距離感が難しいと感じた。私自身は学生と接する部署にいたことがほとんどない(研修で短い期間学生課に配属された)くらいだから……でも、接し方はいろいろと注意されたし、丁寧語を使い、けっしてフレンドリーな対応はするなとか、いわれたような。留学生中心の大学だと、学生と接する方針も違うのか。

上司は注意していないみたいだから、大学として公認されているのだろうが、一方で番組の最後に起きたような「プレイルーム」について、彼の上司が指摘したように大学全体、あるいは学生全体という視点が弱い気がした。

 

2.留学生とのコミュニケーション

私も英語は苦手なのできっと国際交流に関する仕事はできないし、人事部も知っているから異動はさせないだろう。もし異動させられたら辞めろということに違いない。でも、立命館は語学力に関係なく配属するようだ。

多くの大学では留学生は日本語がある程度できることを条件に受け入れているはずだが、この大学は日本語力をとくに指定していないので、入学後に勉強する学生も多いと聞く。対応する教職員はほんとうに大変だと何人かの元教職員から聞いたことがあった。テレビを観たかぎりではそのようだ。

フレンドリーすぎるのではないかと思ったけれど、一方で努力をしており、話した学生一人一人についてメモを書き、名前とどんな学生だったかを忘れないようにしている工夫はいいと思う。何度も窓口にいくのに、職員が名前を覚えていないのはやっぱり悲しいと学生も感じるだろう。これはほかの大学の職員も使っていいのではないだろうか。

 

3.学生課

31名の職員が働いているという。ホームページによると契約職員を含めて197名の職員がいるわけだが、5000人規模の大学にしては学生課の職員は多いのではないだろうか。……で、調べると、この大学ではほんとは学生課ではなくスチューデントオフィスと呼んでいて、今年の5月1日現在で24名となっている。なんで数値が合わないのだろう。それはともかく、それでも多い気がする。でもそのうち契約職員が13名だ。テレビでは紹介しないような業務をしているのか。最初は教務系も扱っているのかと思ったけれど、別にアカデミックオフィスがあって職員が60名……これも多いけれど、学部事務も入っているのかな。事務局構成が謎である。

それにしても、オフィスと窓口をうまく分けていて、その窓口も使いやすそうだし、学生も来やすい感じでいいなぁ。場所もよさそうだ。学生が待つラインを別に設けてそこで並んでもらい、ひとりずつ窓口に呼ぶ形だ。いいアイデアだ。

 

3.志望動機

彼は大学生活がとても楽しかったようだ。人生の夏休み……私もそうでした。

大学職員となった志望動機は、後輩にも同じように大学生活を楽しんでほしいからだそうだ。そういって母校に就職する人も多いんでしょうね。

目的意識の高い留学生を見てカルチャーショックを受けたそうだ。

私は大学に就職して、昔と違って学内の活動で忙しい学生をみてびっくりしたよ。昔と違って今の学生は勉強しているというか、学校でいろんな活動をしてますよね。

 

4.学内活動

禁煙を推奨する学生サークルが紹介されていた。どういうモチベーションでこういう活動をしているのか、どのように大学側がサポートしているのかが気になった。彼がつきそったり、打ち合わせに参加したりしているが、英語で行われる打ち合わせに戸惑う姿が印象的だった。いや、日本語で行われていたとしても、職員はどのようにコミットするべきなのか、考えさせられた。自主的な活動なのに大学側があれこれいうのもへんだし、でも内容的には大学運営に重なる部分もあって口出しせざるをえないだろう。

 

5.待遇

月収と内訳も紹介してくれた。

月収20万円だそうだ。手取りが20万円ということらしい。25歳大卒正社員だと、それくらいだろうか。一般的な大学職員もこんな感じでしょうか。でも九州の相場というより京都相場なのか。

この中で奨学金の返済が毎年3万円というのは大きい。やはり奨学金は安易に借りてはいけない……でも借りないと学費が払えない……大学職員の話で奨学金の切実な状況が垣間見えるのは皮肉なことだ。

 

6.勤務状況

土日休みの週休2日制。始業が9時で終業が18時のようだが、紹介された週は20時まで勤務した日が多く、残業が多めと紹介されていた。それを多いとさらえるか、少ないととらえるかは、職種によって違うのか。うちから見ると、学生課の人はあまり遅くまで残っていない印象です。定時を過ぎて電話をすると誰もいないことがある。

……それはともかく、彼はその中で週一日定時で帰る。てっきり英語を勉強しにいっているという話かと思ったら、バスケットクラブで学生と一緒に汗を流しているということだった。学生時代バスケットをゃっていた経験があり、コーチのような存在なのだろう。そういえば、こうして職員が学生サークルに参加することが認められている大学って、どれだけあるんだろう。

 

7.お祈りの場所

今回の話のメインである。イスラム教を信仰する学生から学内にお祈り場所を作ってほしいとの相談があり、彼が受ける。大学の方針として特定の宗教だけを優遇できないという話をすると、学生からイスラム教だけではなく他の宗教も含めて使えるプレイルームを設置したらどうかと提案があった。空港やアメリカの大学などで設置されている。

このエピソードは全体的に不自然なのだが、それはいい(1人の学生の相談があって、すぐに相談された職員が動いて、しばらくしてから上司に相談するって、プロセスがおかしい)。

その学生と仲間は学生食堂の一角の通路に敷物などを置いて、そこでお祈りをしているという。いや、そんなこと勝手にされたら困る。学生課の職員ならまずはそこを問題視すべきだろうが、そこはスルー。大学として問題ないということなのだろうか。

で、彼はあまり使用されていない会議室を使ったらどうかと提案するが、毎回使用許可申請をしないといけないから無理といわれてしまう。ここでやっと彼は上司に相談する。

この大学では特定の宗教を優遇しないという方針だという。それは正しいかもしれないが、公平に扱うことによって一部の人がかなり苦痛を感じる状態になるというのであれば、対応することもまた必要ではないだろうか、と思いつつ、当事者ではないので、もしうちで同じ相談があったらどうするのだろうかと考えてしまった。

で、彼の上司の答えは「特定の学生のためだけだったらだめだと思うし、キリスト教とか他の宗教もプレイルームが必要という話にならないと、大学の中でなんでムスリムだけという話になるし」だった。

彼は、相談してくれた学生がいるのに応えられないのはもどかしいという。

上司は「ほかの学生の状況も調べて、学生のリクエストがどんなものなのか職員として分析する必要があるのではないか。最終的にどうすればプレイルームというものを実現するような形でつくっていけるか、それがぼくらの仕事」と指摘する。

上司は彼について「学生が望んでいることに回答したいという気持ちが強すぎる。それが必ずしも大学全体や学生自身にとって一番いい回答なのかどうかはもう少し慎重に対応していかなければいけない。もう少しそのあたりを経験してほしい」という。

学生の希望をかなえたいという気持ちは大切だが、マーケティング的にいう真のニーズをつかむ必要もあるし、公平な処理ということもたしかに忘れてはならないのではないかと思った。

彼は学生を呼んで、だめだったと伝える。気持ちはわかるけれど、もう少し大学の代表として回答するような言い方りの方がいいなぁと思ったけれど、現場の人間としては、自分は残念だけれど、大学の方針としてみたいな言い方もしかたないのか。 

 

 

番組の最後、彼は人生デザインとして、「知らないことにわくわくしたい」といい、「学生がすごしやすいキャンパスをつくるため、動き出した」というテロップが流れ、いろいろな国・宗教の留学生にお祈りについてインタビューを行い、「この大学でまだまだたくさんのワクワクに出会えそうだ」というテロップで終わった。

 

自分がもし、新卒で大学職員となり、最初の配属先が学生課で、なおかつ留学生が多い大学だったら、どういう対応をし、どんな職員になっていただろうか、と考えさせられる番組だった。

そして、自分が学生から「プレイルーム」を造りたいと学生から相談があったとき、どう考え、どう行動しただろうか。おもしろいケーススタディではないだろうか。

多くの大学職員に注目されていた番組のようなので反応が楽しみ、だったけれど、あまり見かけないのは残念だ。 うちの職場でも、こんなものが放映されるよと教えたけれど、観た人はほとんどいなかったみたいだな。そういえば、彼のように学生に寄り添って考える職員もいないかもしれない。

 

彼の上司は学生に寄りすぎといった指摘をしていたけれど、どうでしょう?

 

参考

情報公開 立命館アジア太平洋大学