大学の片隅で事務職員がさけぶ

小さな大学の事務職員がいろんなことをさけびます

社会人の学び直しの意味は

大学は次々と開設される一方、その顧客である18歳人口は減少傾向にある。

そんなことは何十年も前から予測されていたことである。それに対して、社会人を大学が受け入れる体制を整えることで、生涯学習のサイクルをつくる。それによって、大学は生き残っていく、みたいな絵をバブル期のころは夢見ていたという話を聞いたことがある。

大学を生涯教育の場に…教育再生会議が提言 (読売新聞) - Yahoo!ニュース

 

教育再生実行会議の資料

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kyouikusaisei/pdf/dai6_1.pdf

 

また、同じ話ですか、と思う。

 

20年以上前、生涯学習が流行って、早稲田大学上智大学昭和女子大学などが社会人向けの生涯学習機関を開校した。中身は新聞社が開講したカルチャースクールと同じで趣味的なものや語学など多様なものであった。

でも、結局、現在採算が取れているのは早稲田大学くらい、ともいわれている。大学の生涯学習というと、大学の教員が教えるというイメージがあるけれど、実際は難しい。大学の専任教員はすでに大学で授業を持っているし、学内のいろいろな仕事に忙殺されている。そのうえ、社会人向けにに講座をもってほしいといわれても、引き受ける人はあまりいない。いたとしても、その人にはプラスαの講師料が発生する。結果として、学外の人を講師としてお願いすることになるので、大学が開校する意味はどれだけあるのか、経費的にも疑問であり、結果として収益という面では成功しなかった要因だろう。

……というのも、採算性も含めて実施を検討してくれといわれたので、以前に調べたことがあるので、そのときの記憶で書いている。

20年以上前は、定年退職した人や専業主婦など、時間とお金が余っている人を対象に大学で学んでいるというブランド力も含めて、集客することができたのだと思う。

でも今は、趣味的なものや学術的なもので社会人を集めることは無料のものであっても困難、ではないか。ほかの大学の方の話を聞いても、無料の公開講座ですら、集客に苦労している話をよく聞くし、私も苦労したことがある。

 

社会人の学び直しに関する補助金があって、採択された大学がそれに基づくいろいろなプログラムを開設したが、補助金終了後に残ったものはほとんどない。プログラムのほとんどが無料または安価であり、補助金なしでは存立できなかったからだ。

社会人の学び直しニーズ対応教育推進プログラム(「大学・専修学校等における再チャレンジ支援推進プラン」の一部):文部科学省

 

バブルのころは、老人や専業主婦など時間とお金が余っているひとが興味本位で学んでいたということもあるだろう。でも、社会人は今、意味のない学びに時間とお金をかける余裕がないということではないだろうか。

社会人が今比較的集まっているMBA系の大学院においても、結局人が集まるのは中身よりもブランド力のある大学のようである。そして、MBAを得たからといってキャリヤアップにかならずしもつながらないことから、すでにMBAバブルは崩壊しているという話も耳にする。日本大学など、MBAを廃止するところもでている。

法科大学院などはさらにひどい状況だ。

 

こんな状況でまた大学を生涯教育の場にするといっても、どうするのだろうか。

 

定年退職した人たちはもはやそんな資金的余裕もない。

社会人は、自分にプラスにならないかもしれないものに投資するはずもない。

子育てなどで仕事を離れた女性もまた、お金も時間も余裕がない。

 

それはもう、20年以上前の生涯学習の流行から衰退までの流れの中で明らかになっていることなのではないか。

 

これはつまり、「大学の学びに意味がない」ということだといったら言い過ぎだろうか。

 

大学の新卒の学生たちの就職活動は「新卒」ということが条件であり、大学で何を学んだかということは意味のない。意味があるのなら、年齢やどの大学ではなく、学んだことを評価するものではないか。学んだことが評価されるのであれば、社会人でも、専業主婦でも、大学でふたたび学ぶ意味があるはずである。

アメリカは、高校を卒業して就職し、ある程度お金がたまったら仕事を辞めてコミュニティーカレッジで学んで転職し、それからまた大学の専門課程で学んで転職し、大学院で学んで転職……というキャリアパスの流れができているといわれる。

 

でも、日本では学校で何を学んだかなんて、ごく一部の専門的なもの以外は評価されないのだ。そういった現状を放置したまま、社会人の学び直しだとか、大学に社会人を受け入れるといった話をしても、意味がない……ということは大学関係者はもう知っている。だから、政府が何かを提言しても動かないし動けない。

補助金で政府は動かそうとするかもしれないが、今言った根本的なことが変わらない限り、今まで何度も補助金を絡めて試みようとした大学に社会人を迎え入れるといった流れは作れないだろう。

 

それでも、補助金がでるといったら、多くの大学も動き出すだろう。

うちもきっとそう。