大学の片隅で事務職員がさけぶ

小さな大学の事務職員がいろんなことをさけびます

IRという言葉は

うちの職場ではほとんど話題にもなっていないけれど、業界的には話題になっているIRですが、働いている業界によって意味が違う。

 

一番世間に浸透しているIRは、「Investor Relations」のことである。「企業が株主や投資家に対し、投資判断に必要な情報を適時、公平、継続して提供して行く活動全般を示します」(日本IR協議会「IRの定義」)ということで、株式投資をしている人や企業で働いている人にとってはよく知る言葉でしょう。私の専門もどちらかというとこちらのIRなんで、広報系なんですけどね、もともと。

あと、最近話題になっているIRは「Integrated Resort」である。統合型リゾートといわれるカジノを含んだ大規模リゾート施設のことで、日本でもカジノ推進法案が作られるなど、日本でも導入が計画されている。どちらかというと、私はこっちのほうが興味はある。シンガポールセントーサ島とか、楽しいですよね。カジノにいかなくてもさまざまな娯楽施設が集められていて、子供からお年寄りまでいろいろな人が楽しめるように作られている。

で、最後がうちの業界でいわれているIR「 Institutional Research 」。大学IRコンソーシアムによれば「本来、教育、経営、財務情報を含む大学内部のさまざまなデータの入手や分析と管理、戦略計画の策定、大学の教育プログラムのレビューと点検など包括的な内容を意味しますが、我々の連携事業では、教学に特化したIR活動に焦点を置いて、連携事業を進めてきました。ここでは特に、①個別大学内での改善のための調査・分析と、IR先進国ですでに行われている②ベンチマーキングのための複数機関間比較や全国調査による自機関の相対的な位置付けのための調査・分析という両方のIR機能に注目しました。連携事業で行ってきた「IRを通じての相互評価」の主要な課題は、この②ベンチマーキングのための複数機関間比較を通じて、教育課程の充実へと結びつけていく質保証の枠組みの整備です」と掲げられている。

 

最初にInstitutional Researchのことを知ったとき、実は私、理解できなかったんです。つまり「マーケティング」とどう違うのか、と思ったのである。前職では広報兼マーケティングみたいなことをしていたんですが、それとどう違うのか、なんであえて「Institutional Research」というのだろう。

一般的にマーケティングという言葉は宣伝や販売促進活動を指すと思われているが、本来は商品などの企画や開発から調査・分析、PR、流通、販売場所、営業、接客対応、顧客管理や情報分析・管理など幅広い活動、なんだけれど、日本の企業ではそこまで包括的な活動としてとらえているところはそんなに多くないのかな。

マーケティングとは「顧客、依頼人、パートナー、社会全体にとって価値のある提供物を創造・伝達・配達・交換するための活動であり、一連の制度、そしてプロセスである」とアメリカマーケティング協会では定義されているが、団体や人によって定義は違うので断定的にはいえない。でも、IRってそういうことなんじゃないかと思って、何が違うのだろうと思ったのだ。

IRの場合はことばのとおり、教育に関するデータを主に扱うものであり、分析の手法が違う、のかもしれないが、マーケティングだって業界によって扱うデータや分析手法も違うのだから、それをもって違うとはいえない。

IRについて調べると、やはり定義がはっきりしていないようだ。ただ日本の場合は大学IRコンソーシアムが掲げているとおり、教学に特化している場合が多いようである。そこまでいくと、やはり違うのか。

ただ、マーケティングとIRで決定的に違うものがあると最近気づいた。

それはマーケティングの場合、目的がはっきりしている。ある商品を作るためにさまざまなデータを分析して企画をつくり、市場調査や顧客調査をして分析し売れる可能性を図る。それに対してIRは……いくつかの文献やホームページなどをみた限りだが、目的がはっきりしていないように見えた。つまり、学内にあるデータの分析ありきで、その結果見えた傾向から考える……たとえば退学者の原因を読み解いてその対策方法を考えるとか、ある進路をとる学生がどういった活動を学内で行ってきたとか、簡単に言うと消極的に感じるのである。

マーケティングは目的がはっきりしているので、そのためにどういうデータにあたるのか、顧客データの何を分析するのかというがだいたい明快であり、あとは分析手法やその結果をどう目的に結びつけるかということが重要となってくる。

そこが違いなのかな、と最近感じるようになった。

昨年、補助金の調査項目にIR専門の部署を作ると得点が加算されるというものがあって、そのときになってうちの学校でも話題になったが、上の人たちのだいたいの反応が「で、IRって何に役立つの」という疑問だった。それに対して誰も明快に答えることはできず、うちの学校でIR専門部署が作られることはなかった。たぶん来年度も作られない。

大きな大学であれば、データを分析することを主とした部署を作るのもいいだろう。でも、小さな大学でIRの専門部署を作る必要があるのだろうか。これからの業界的危機の前にIRは必要だという論調を見かけるが、目的や効果もはっきりとしていないものを作る余裕がある大学がどれだけあるのかを考えたほうがよいのではないか。

私としては「Institutional Research」の部署よりも、大学は「Investor Relations」の部署を作って、外部からの寄付金導入や企業との共同研究推進のための情報提供や、保護者や学生、受験生やその親、高校などへの情報発信に力を入れたほうがずっと大学のためになるのではないかと思う。

どちらかというと、そんな部署をうちにつくりたい。