大学の片隅で事務職員がさけぶ

小さな大学の事務職員がいろんなことをさけびます

奨学金は単なるローンなんですが

私も学生時代、日本学生支援機構奨学金を借りた。有利子だったらたぶん借りなかったかもしれないが、運よく無利子の枠を得ることができた。それで学費の足しにして、教科書代や交通費などは自分でバイトしたお金を使った。きっと奨学金がなかったら、大学に通えなかったかもしれない。

 

でも、給付だったらもっとよかった。

 

なぜなら、今でも毎月ほそぼそと返済しているからである。有利子だったら一括返済したかもしれないけれど、無利子だから言われるがままに返しているのだ。

当時はありがたかったけれど、今思うとやっぱり「借金」。

たしかにお金を出すのは日本学生支援機構なんですけれど、学生に貸し出すための審査をするのは大学側なんですよね。

大学別「奨学金延滞者数」公表に賛否両論 学校選びの参考に「無用な順位づけ」 : J-CASTニュース

 

学内の奨学金選考過程について、以前ヒアリングをしたことがあった。

その中で卒業後の延滞率についても話題となった。

「けっこう高いですね。なんででしょうか」

「就職がうまくいかなかったとか、ほかにも借金があるとかですかね」

「採用の時点で親の収入が少ないとか、学費を滞納しがちとか、貸せないなぁっていう人はいないんですか」

「まあ、いますけど、そういったことで審査してはいけないことになっているんですよ。だから成績とか、一応面接して約束守れる子かとかは見ますけど、返せないかもしれないといったところでは審査しないですね」

そうか、そこがローンと違うのかと思ったものです。

ってことはさあ、奨学金返済を延滞しているからといって、それが大学のせいと言われるのはどうかなぁと思う。

でも一方で、奨学金返済の延滞率が高い大学というのは、学生をきちんと就職させていない、ともいえるのだろうか。一件就職率が高くても、もし延滞率も高いのであれば、そのあとの離職率が高く、なおかつ正規社員として再就職できていない、と推測できるのか。

そう考えると、たしかに各大学の延滞率は見てみたいような気がする。

気がするけれど、そもそもこの「ローン」の制度自体に問題があるのではないだろうか。無利子のものはともかく、有利子はけっして低い利息ではない。どちらにしても返さないといけない。お金が返ってこないと貸し出すための原資が減るから奨学金の採用数に影響がある。それがぐるぐる回っているが、そこに国による優秀な学生の育成のための資金支出という視点はないのだな。

本当はここから私立大学経常経費補助金や国立大学の運営交付金の話につなげたいが、そのへんの知識がないため、今後考えます。考えますが、補助金という形で大学に出すよりも給付型の奨学金にすればよいのではないか、という意見を耳にしたことがあり、興味深く思っている。

 

さて、そうはいっても、うちのような小さな大学では独自の奨学金もほとんどないため、やはり日本学生支援機構奨学金が頼りです。あとは学生に「これはローンだから。借金だからね」と強く説明したうえで申し込みを考えさせるしかないんだね。担当者とお話ししたときの結論でした。

 

学生だったとき、そんな説明受けなかったから気軽に申し込んだのかな、私?

研修がしたいの?

入試も結果も少しずつ明らかになっていますが、あんまり順調とはいえないですね。受験者数もそうだし、歩留まり率もそうだし、入試部署の部屋にお札を貼ろうということをいってる教員もいますが、どこの神社がよいのでしょうか。

 

さて、そんな喧騒を少し離れたところで心配そうに見ている私のところに、人事部の人が訪ねてきた。

「来年度のSDの計画で相談に乗ってほしいんですけど」

私が前職で研修を企画していたことを知っているからだろう。でもなんで今更きたのだろうか。

「SDを活性化したいと理事長から指示がありましたので」

なるほど、きっと何かの会合に出て、感化されたのだろうな。

「で、どんな研修を考えているんですか?」

「職員の能力がアップするようなものにしたいんです」

「能力って何?」

「えっ?」

「どういう能力をアップさせたいんです? 対象はどういう人たちなんですか」

「対象は……事務職員一般で、能力は、その、今よりもさらにアップさせたいというか」

「今は能力が足りないということですか?」

「足りないというか、今後のことを考えるとさらに能力をアップさせるというか」

「能力って何を想定していますか?」

「えっと、高等教育への理解とか、企画力とか、事務能力全般というか……」

「それって、人によって違うのではないですか?」

「そうかもしれないけれど、でも、全体的に能力をアップさせるというか」

「アップするとどうなるんです」

「アップしたら、、、業務が効率よくなったりとか、学生のサービス向上につながるとか、受験者が増えるとか」

「ということは、今は業務の効率が悪いとか、学生サービスの質が低いとか、受験生が集まっていないとか、それは事務職員の能力に問題があるということですか?」

「いえ、だから、今何か問題があるということではなくて、今後のことをかんがえて」

「今問題がないなら、改善する必要はないし、問題があるなら、その原因をつきとめた結果事務職員の能力に問題があるというのであれば対策を考えるという流がふつうではないですか」

「そ、そこまでではなくて、純粋に能力アップを目指すということなんで」

「そうしたら、まずは、どういった能力をアップさせるのか特定することから始めないといけないですね。そのうえで効果的な研修は何か考えていきましょう」

「そ、そうですね。また、相談させていただきます」

 

それっきり、人事部の人は私の前に現れません。あれ、何か変なこといったかしら、私。

研修が大切だ、大切だって声高に叫ばれている業界って、大学くらいだと思うんですが、そんなに能力が低い人ばかり集まっているのだろうか。うちやまわりの大学を見た限りでは業務は滞りなく動いているようだし、能力が足りないからといってクビになる人も聞いたことがない。(問題はないとはいわないけど、それは能力とは別の問題じゃないかなー)

SDと一言で言ってしまうけど、大学によって、あるいは部署や階層、経験年数によって必要な能力も研修も違うはずである。でも、SDと一言で言ってしまうと職員みんなに必要な研修みたいなことになってしまうから、私にはピンとこないのだろうか。

やっぱりSDといっている文科省に問題があるのか。それに踊らされる大学がいけないのだろうか。

そのうち、教育の質保証だけではなく、職員の質保証なんて話まででてくるかもしれない。いや、なんだかよくわからないSDなんてものをやるよりも、職員のジョブディスクリプションを作ったほうがよいのではないだろうか。

そうすると、現役の職員で困る人もでるのだろうか。

 

研修で何かが解決したり、組織能力が向上するなんて実際はあんまりないですよ。私の企業経験から見るかぎりですが。

専門的職員とはこういうことか

明けましておめでとうございます。なかなかブログを更新することができません。忘れているわけではないのですが、公私ともにいろいろと忙しく、文章を書く気力がなかなか出ないんです。仕事で十分書いてますから。

 

さて、大学職員のHOTワードの一つに「専門的職員」というものがある。少し前は「高度専門職員」といわれていたものが、途中で表現が変わったものである。文部科学省が提唱しているものであるが、まだその定義がはっきりしておらず、中教審で継続審議のままである。このままだと来年度の大学設置基準への反映は難しいのではないだろうか。

大学教育部会で審議されたのは2015年の7月が最後のようだ。調査結果が出るまではペンディングなのだろうか。

大学における専門的職員の活用の実態把握に関する調査研究について:文部科学省

大学教育部会(第36回) 配付資料:文部科学省

 

専門的職員の必要性については、as-daigaku23さんが述べられている問題提起に賛成である。

as-daigaku23.hateblo.jp

大学は本当に専門的職員を求めているのか。その場合はどのような人を求めるのであろうか。

私は中途で採用された者であり、その能力が求められて採用されたはずである。だから今の企画系の部署にいるわけだが、将来的にずっとこの部署にいるのかはわからない。うちも含めて大学の事務組織の多くはジョブローテーションが行われており、まったく違う業務を行う部署に異動する可能性は高い。なぜなら「専門的職員」として採用されたのではなく「総合職」としての採用であり、何らかの理由があれば異動対象となるのだ。

もし私が異動で、今とはまったく違う学生支援や施設管理といった部署に移った時、私はどれだけ今の組織に貢献することができるだろうか。そして私の持っている経験や能力がどれだけ有効に使うことができるだろうか。

もちろん大学職員としては、特定の部署の業務だけではなくさまざまな部署を経験することは必要であろうし、一見関係ない業務でも役立つかもしれない。組織の中にいるものとして、自分の都合だけでどうにかできるものではないことはわかっている。

 

しかしである。私は自分が持っている経験や能力を活かすことを目的に転職してきたのである。それが使えないとなるとき私はどういう決断をするべきなのだろうか。

そういう意味で「専門的職員」というものに興味を持っていた。専門的職員であれば、異動などはないし、もしその大学で不要となった場合は違う大学へ容易に移ることができる仕組みになるのかという淡い想いを抱いたのだ。

 

それは、ある大学のIR業務担当者の職員公募を見て打ち砕かれたのです。

まずは応募資格。

(1) 大学または大学院を卒業し、Institutional Research(以下『IR』という)業務を遂行する能力を有していること。
(IR業務の遂行能力を有していれば、必ずしも大学院修了にはこだわらない)
(2) MicrosoftExcelを使いこなせること。また、SPSS等のソフトウェアを用いた統計分析の経験があること。
(3) 大学の教学に関する知識を有していること。

ハードルは少し高いけれど、これはいいですよね。

主な職務。

(1) ●●大学の事業企画に資する情報の選定およびその収集分析(高等教育を取り巻く外部環境の分析含む)

(2) ●●大学および各部局の教育の質向上に資する情報の収集分析

(3) ●●大学および各部局の自己点検・評価に資する情報の収集分析

(4) その他、●●大学Institutional Research企画運営委員会および総長室付大学評価室(IR担当)が必要と認める業務

※ 教育研究職ではありません。

かなり高度な仕事ですね。

問題は待遇です。

契約期間:2016年4月1日~2017年3月31日(1年)

※ 大学と本人双方の合意があった場合、上記契約終了後に1年契約を4回まで更新可能。ただし、契約期間中に満65歳を迎える場合は、当該契約期間終了以後は更新不可。

※ 本学スタッフとしてふさわしくないと大学が判断した場合は、契約期間中であっても契約を解除することがあります。

まずは専門嘱託職員(有期雇用職員)であるということ。当然契約更新は最長5年。正規の職員や教員への採用、身分転換はありませんと書いてありました。

そして給与。 

本俸:月額250,000円

賞与:年2回(夏期・冬期)それぞれ本俸1か月分但し、初年度の夏期賞与は

未就任控除あり

つまり、新卒の大学職員よりも年収が少ない状態で、これだけ高度な業務を担当し、でも最長で5年が過ぎたらさよなら、ということである。

 

ここまで長々と書いてきたが、ようするに専門的職員という制度が導入された場合、専任教員のように雇用の流動化が生まれる反面、高度な業務にもかかわらず専任職員よりも低い雇用条件で公募される可能性は高いのか、ということである。たしかに職員の公募で特定の仕事を求めているものはだいたい嘱託などの有期契約で給与は専任に比べると極端に低いものがほとんどだ。専門的職員というものが制度化されたとしても、行きつく先は見えているということだろうか。

現在でも、特任教員という形で高度な業務を求めつつ、待遇は専任教員よりも低く雇用するという状況がある。同じことになるのだろうか。

 

この前、ほかの大学の人事部長とお話をする機会があった。異動せずに長年同じ部署にいる人は、その人がいなくなると仕事がまわらなくなるため異動させられない場合と、他に引き取り手がなく異動させられない場合の二通りがあるという話を聞いた。うちの状況を見ると…………さて、私はどっちだろうか。

 

私の引き取り手がないような気がしてきた。

どんな人を採用したいの?

今年度の大学職員の採用もだいたい落ち着いたのだろうか。大学職員への道を見ると、まだいろいろな大学が公募をしているところも多いみたい。

私も大学職員への道を参考にして中途で入職した人間である。私の時もわりと人気で若干名の採用に数十倍の応募があったとあとで聞いた。よく選ばれたものだと思うが、経歴が買われたらしい。

今大学にいる人間がこういうことをいうのもどうかと思うが、でも言います。

 

大学側は求める人材像を決めているようで、決めていない。たぶん、ほとんどがそう。具体的な業務を提示している場合は除いて、こういう能力がある人がほしいとか、あまり考えていない。いや、採用前は一応考えているのだろう。求める人材像を提示している大学も多い。

でも、実際に募集をすると、ありえないくらいの立派な学歴や上場企業に勤めている人、あるいは教員公募と勘違いしているのではないかというような研究業績のある人まで応募してくる。うちみたいな小さな大学ですらそういう状況になる。

そうすると採用する側は自分たちが求めている能力のある人、ではなく、応募者の中から選ぼうとする。そうすると「外資系の会社の人がいるんだよ」「海外のMBA持っているんだってよ」「大手広告会社の人はほしい」……もちろんそういった人は他の大きな大学と併願していて、内定を出してもだいたいは辞退されてしまう。

でも、まれに入ってくる人がいるんです。立派な経歴や学歴を買って入職させたのだから、それなりの仕事をさせるのだろう、と思うとそうではない。

「最初は大学のことを知ってもらいたいから」といって、外資系で英語堪能な人を入れたのに学生課に配属して奨学金の事務をさせたり、海外のMBA持っているのに、教務課に配属して教職課程の事務をしてもらったり(たとえなので、実際にそういう人がいたかどうかはww)。あるいは金融機関で何十億と動かしていた人を会計課に配属するけれど、細かい金額の伝票処理に明け暮れる。広告会社の人を雇って広報に配属したけれど、高校回りに終始する(これらも想像です。実例を挙げているんじゃありません。本当です)。そうすると、だいたい辞めて他の大学とか違う業界に転職してしまう。

大学のことを知ってもらうのも重要だけれど、そもそも採用した人のスペックが高すぎだったのではないかと思う事例も散見する。それはお互いにとってミスマッチであり、不幸ではないかと思うのだ。

 

そんな私も中途採用。マーケティングなどの経験を買われた、はずだけれど、なぜか経営企画系の部署にいる。これがミスマッチかどうかといわれると自分ではわからない。がんばってますから。

でも、私の企業経験や能力が活用されているかといわれると、どうかなぁ。うちの広報戦略にいろいろと言いたいこともあるけれど、そんな権限も力もないの。

中途採用である以上、やはり組織として必要な人材を特定して採用するべきだと私は思うのです。

 

こんなはずじゃなかったんだけど、と思っている中途採用で入った大学職員は案外と多いんですよ。いろんなところで話を聞いただけで、母数としては信用できないけれど。

 

ええ、大学職員への道は今もよく見ています。

厳格化なんて関係ないと思っていたけれど

文部科学省が都市部の定員超過率の高い大学を標的として、「平均入学定員超過率」に係る要件を厳格化策を打ち出してきた。

 

大学、大学院、短期大学及び高等専門学校の設置等に係る認可の基準の一部を改正する告示の施行について(通知):文部科学省

平成28年度以降の定員管理に係る私立大学等経常費補助金の取扱について(通知):文部科学省

 

定員埋めるのに必死な都市部付近のうちの大学には関係ない話だよね、と最初は思っていたのですが、よく考えるとそうではないことに気づいた。

文部科学省はこの施策によって、地方の大学に学生が流れていくことを想定している。しかし、実際は都市部の有名大学を目指して入れなかった受験生が滑り止めで都市部の中小規模大学を受験し、第二志望、第三志望、あるいは仕方なく、入学してくる可能性が高いということだ。

 

ビジネスチャンスじゃないか。

 

……そう思ったのは経営陣。さっそく、収容定員を増やす検討を始めろとの指令が届いた。あのう、うちは定員を埋めるのに苦労していて、いや定員割れしている学科もあるんですよ。大丈夫ですか、と一応意見具申してみましたが、それも含めてシュミレーションしろとの仰せ。

ということで、最近すっとエクセルでさまざまな状況を想定して、どこまで定員を増やすことができるかを計算中。でも、現状のオープンキャンパスの集客や予備校からの情報を見る限り、うちに恩恵があるかは微妙だ。今回の入試結果を見てからでもいいのではないかとも思うが、来年3月の認可申請を目指すなら今から始めるしかない。

 

でもハードルが一つ。

学生の確保の見通しを客観的データで説明しないといけないのだ。定員割れそうなところがどうやって増やしても大丈夫だよ、みたいなデータをつけることができるだろうか。今から高校にアンケート……めんどくさいな。予備校の受験状況のデータ……学科によっては全体的に受験生が減っていたりすると難しいか。

 

そんなことで最近はエクセルを見ながら電卓をたたいて(エクセルの意味がない)、入試の部署や関係学部長と打ち合わせをしたりして忙しく過ごしています。

このブログはたまにしか更新しないので、ご承知おきください。「言葉ではなく、その行動で」をもっとーに仕事をしつつ、仕事では言えないことをここでさけびますので。

学校法人のガバナンスはどうなっているの

この夏、あちこちで大学職員の集まりがあったみたい。みなさん勉強好きなんですね。うちの職場でも参加している人がいるみたいだが、役に立っているのかなぁ。

 

そんな私は家族サービスと読書で夏休みは使い切りました。

おかげでシルバーウィークはお金がなかったのでどこにもいけなかった。

 

そんな夏にこんなニュース。

私的流用1480万円、文理佐藤学園令嬢の異常な金銭感覚…海外出張2年半で285日間 (産経新聞) - Yahoo!ニュース

 

文理佐藤学園」の創業者の長女で学園長と小学校の校長を兼務していた人が、学校のお金でアメリカを豪遊していた、といったニュース。

創立者一族による経営が行われている学校法人って、けっこう多いのでしょうか。

学校法人って、仕組みの上では「オーナー」は存在しない。学校法人は創立者からの財産提供によって設立されるわけなので、提供したら権利はなくなる。株式会社でもないから、出資比率での支配ということもできない。学校法人の寄付行為には、理事のうち1名は創立者の一族を入れる、みたいな表現が入っているところもあるみたいだが、理事会の過半数を押さえない限り法人を支配することはできない。ということで、親族や近い人たちで理事会を固めて支配することで、実質的に支配することが可能。

理事だけではなく、事務職員の役職者などを身内で固めることで支配は強力になる。制度ではなく人を使うことによって支配することができる学校法人はある意味、とても支配しやすい組織体なのかもしれない。

 

文理佐藤学園は学外理事もいるみたいで閉鎖的とはいえないようだ。

もちろん学外理事だからといって、会計の帳簿を細かく見るわけでも、伝票の決裁をするわけでもないから、今回の問題には無力だ。

 

会計処理をしていた事務職員や決裁していた役職者は、知っていたわけですよね。もちろん「おかしい」とは立場的にはいえないかもしれないけれど、今になって法人も被害者、みたいな感じになっているのはどうかと思う。

 

この事件のあと、何人かの業界関係者と話をしましたが、この程度の話はあちこちにある。ただ、表ざたにならないだけだといわれましたが、どうなのだろう。

うちの大学はオーナー系ではないけれど、えらい人たちがどんなお金の使い方をしているかはわからない。でも「うちには交際費とかないから」といわれていて、外部の人を招いての夜の宴会はだいたい、学長や理事長が自腹で払っている、みたい。

 

文部科学省がいう大学のガバナンスの強化は教学、大学部門における学長を中心とした体制のことを主にいっているが、そのうえにある理事会や法人部門のガバナンス強化という話にはなぜならないのだろう。コーポレートガバナンスの観点からすると、学外理事を過半数にするとか、もう少し細かい財務諸表の開示とか、評議会の強化などが考えられる。これから大学運営は厳しくなる……いや厳しいところはもう厳しいわけですが、だからこそ法人運営を強化して適正な収支の維持や大学存続を前提とした長期計画の立案が必要なのだと思う。

 

大学はともかく法人運営がちょっと……というところは、はたしてどれだけあるのか。今回の事件は氷山の一角なのか。

他の学校法人でも同じようなことが、と、次々と報道されるかと思ったら続報は今のところないようですね。

うちは大丈夫なのか、今度会計の職員と呑んだときに聴いてみないと。

学費無料の原資は

どの大学も夏休みですが、オープンキャンパスの時期でもあり、集客に一喜一憂しているのでしょうか。うちは、担当者が真っ青です……。

 

そういえば、大学院の博士課程で学費を無料する大学が現れた、という記事がありました。

博士課程の学費、全員「タダ」 東京理科大が来年度から:朝日新聞デジタル

 

博士課程と書いてあるけれど、博士後期課程のことかな。「初年度の入学金30万円のほか、施設設備費18万円と授業料約80万円が毎年必要で、3年間で計約320万円かかる。来年度からは入学金と施設設備費を免除し、授業料相当額を返済不要の奨学金として給付する予定」だそうな。それも全員。なおかつ来年度入学者から、だけではなく在学生も対象になるという。

このほかに経済的支援として「博士課程の学生のうち3割程度を「リサーチアシスタント」として大学が雇い、年105万円を払う。また、「テニュアトラック制度」を設けて、若手研究者を年3人程度試しに雇い、初年度に1千万円の研究資金を提供する。一定の研究成果を残せば准教授などの正職員に採用する」ということらしい。

どれだけ学生がいるのかと思ったら「現在約280人の博士課程の学生を、将来的に500人程度まで増やしたい考えだ。5年で約40億円の支出増を見込む」とあった。

 

数名しか学生がいないような大学院ならともかく、博士後期課程で280名もいるような大学でそういうことをするんだ……と感心した。数名しかいないような大学院でしたら、効果があると思うんですよ。いや、280名もいる大学院でも効果はあるでしょう。でもそれにかかる金額が違う。5年で40億円ですよ。

 

この原資は何?

 

これは東京理科大学だけではなく、多くの大学で実施している給付型の奨学金にもいえる話だ。何かの基金があって、その運用益ないし切り崩しによる給付ならいいと思うんです。あるいはスポンサーを見つけてそこからお金をださせる方法もあるでしょう。

 

でも、そうでなければ原資は何かといえば、学生が払っている学費なんですよ。

 

学費なんですよ。

 

いわば、キャッシュバックですよね。

 

成績優秀者にはキャッシュバックしますよ、的な奨学金はまあいいと思いますよ。全員に機会があるわけですから。あとは努力次第。

 

でも、博士後期課程とはいえ、全員というのはどうなんだろうか。それもキャッシュバックどころか、最初からお金を払ってないのだ。

 

ステークホルダーたる他の学生は納得するのだろうか。それとも、無料にすることで学部・修士課程の学生に有益なことがあるのだろうか。

今、東京理科大学のサイトを見ましたけれど、この報道に関することは何も載ってませんでした。

 

私は今の職場で無茶な支出が行われようとすると、だいたい「これって学生の学費ですよね」といいます。だいたい嫌な顔をされます。一般的に大学の収入の7割~8割は学生の学費です。大学で働く者として、それは忘れてはいけないことだと思うのです。

 

東京理科大学の今回の施策は、博士後期課程の活性化、優秀な研究者の確保と育成という視点で言えば、すばらしいと思います。数名しか在学者がいないようなほかの大学の大学院も検討してもいいのではないかとも思っています。

でも、こういう施策を実施する場合は、どの大学においてもその原資のことも意識してほしいし、その有益性について学内外に向けて積極的に発信する必要があるのではないか、と今回の報道で感じました。